主な病気と治療法
獨協医科大学呼吸器外科は北関東における基幹施設の一つとして、呼吸器外科にかかわる疾患について幅広く対応しております。それぞれの治療については、最先端のガイドラインを参考にしながら、各症例に合わせた最適な治療法を選択するように、日々カンファレンス等を通じて複数医師で議論を行いながら治療を進めています。
呼吸器外科に関する疾患でお困りの事がございましたら、ぜひご相談ください。
外科診療
当科は脳死肺移植実施認定施設の一つです。
肺癌に対する手術
胸腔鏡を用いた完全鏡視下手術だけでなく、症例に応じてより低侵襲性を追求した手術支援ロボット(da Vinci)を用いた手術や単孔式手術を選択しています。
手術支援ロボットを用いた手術でも、ポートの数を少なくするreduced port surgeryにいち早く取り組んでいます。また肺切除範囲についても、最新の臨床研究の結果をもとに適切な症例を対象に区域切除を選択するなど、QoLや長期予後も考慮したオーダーメードの治療戦略を立てています。
小さな病変を切除するには、病変を正確に同定することが重要です。当科ではシュアファインド®︎というICタグを病変近傍に留置し、その電波を検知することで正確に病変の切除を行う精密肺切除を、北関東で初めて導入し実施しています。また正確な区域切除を行うために、ICGというお薬を使用し、近赤外光で区域間を同定して切除する方法も用いています。
気管支形成や血管形成といった高度な外科手技を駆使しながら、他施設では切除困難と判断された高難易度手術についてもできる限り取り組んでいます。
縦隔病変に対する手術
縦隔腫瘍はあまり聞きなれない病気かもしれません。胸の真ん中の部分、左右の肺に挟まれ、また背骨と胸骨に挟まれた領域を縦隔(じゅうかく)と言います。この部分は心臓や血管、気管、食道、胸腺などが集まっている体の中の重要な部分です。この領域にできる腫瘍を縦隔腫瘍と言います。
縦隔には様々な臓器や重要な血管、神経などが集まっているため、胸部レントゲンではいろいろな物が重なってしまい、なかなか病気を発見しにくい部分です。縦隔にできる病気はその発生部位によって特徴があり、また障害される部位や腫瘍の種類によって様々な症状を生じます。
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胸腺腫瘍
(胸腺腫・胸腺癌)縦隔腫瘍の手術で最も多い疾患です。重症筋無力症という筋肉に力が入りにくくなる病気を合併することがあります。その場合には神経内科の先生と一緒に治療します。
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嚢胞性疾患
縦隔の様々な臓器に付随して、液体のたまった袋のような病変を生じる病気です。症状がなく小さな病変ならば経過を見ることも多い病気です。
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神経原生腫瘍
縦隔や胸腔内にある様々な神経から発生する腫瘍です。神経を包んでいる鞘から発生する神経鞘腫や神経線維から発生する神経線維腫は、その代表例です。
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リンパ腫
リンパ腫は縦隔を原発として発生することがあります。
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胚細胞腫
胎生期の原始生殖細胞が腫瘍化したもので縦隔から発生することがあります。最も多いものは成熟奇形腫(良性)ですが、悪性のものもあります。
肺移植
当科は日本で11か所ある脳死肺移植実施認定施設の一つであり、2007年に関東初の肺移植実施施設に認定され、2009年に関東初となる脳死肺移植を行いました。また2013年には関東初となる生体肺移植を実施しています。
肺移植は末期呼吸不全に対する唯一の治療法です。呼吸器内科、心臓血管外科、麻酔科、集中治療室、リハビリテーション部、看護部、薬剤部、栄養部など院内すべての部署からの協力を得ながら、命の贈り物である脳死肺移植医療を推進しています。
最近は片肺移植の症例に対し、より良い肺を残し悪い方に肺移植を行う左右反転肺移植を実施しており、右肺を左に移植する右左反転肺移植を世界で初めて成功させました。
Chida M, et al. Right-to-left inverted single lung transplantation. JTCVS Tech. 2020;4:395-397.
今後も、北関東に根ざした肺移植医療の普及を通じて、日本と世界の肺移植の発展に努めていきたいと考えています。
気胸・嚢胞性肺疾患に対する手術
気胸は肺を包んでいる胸膜(臓側胸膜)の一部が何らかの原因によって破綻し、肺から空気が漏れる病気です。漏れた空気は胸腔内にたまり、肺は虚脱してしまいます。
10代~20代の若い人に発生する気胸の多くは、肺嚢胞(ブラ)の破綻によるものです。
そのほか、高齢の方には肺気腫や肺線維症を合併する人に発生する続発性気胸や、女性にみられる月経随伴性気胸、外傷に伴って発生する外傷性気胸などがあります。
気胸によって胸腔内の癒着がはがれ、血気胸となった場合は緊急手術が必要なこともあります。
当科では気胸手術は原則として胸腔鏡手術を行い、実施可能と判断された方にはドレーンが挿入されている創(2cm程度)からのみで手術を行う単孔式手術も行っています。
気胸は再発の多い病気であり、手術を行った後も再発することがあります。
その他の手術、境界領域に対する手術
当科では外科治療が必要な呼吸器疾患を幅広くカバーしており、感染症や小児呼吸器外科手術などにも対応しています。
また頚部や食道、椎体、大血管、腹部といった呼吸器外科と他の専門科との境界領域にまたがる疾患に対しては、各診療科と密接に連携しながら治療を進めてまいります。
薬物療法
当科では外科治療に係るがん薬物療法も積極的に実施しており、周術期治療および再発時の薬物療法を行っています。
殺細胞性抗がん薬だけでなく、分子標的治療薬や免疫チェックポイント阻害薬など、最新の治療薬についても、最新の学会ガイドラインや日本での薬剤承認に関する情報を参考にして、積極的な治療を行っています。
2023年11月現在、呼吸器外科には呼吸器外科専門医5名、がん治療認定医4名、呼吸器専門医・指導医が3名在籍しており、外科治療のみに留まらずそれぞれの医師の専門分野を生かして各種がん集学的治療を行っています。
治療については投与する薬物療法の内容に応じて入院で行うものもありますが、患者さんの日常生活におけるQoL向上を目指して総合がん診療センター外来化学療法室での外来治療も行っております。現在は1ヶ月当たり延べ50人程度の患者さんが外来化学療法で治療継続されています。各種薬物治療は投与する薬剤により投与スケジュールが異なりますので、投与スケジュールにつきましては各担当医にお尋ねください。
当科では放射線科とも連携し、抗がん剤と放射線治療を組み合わせた化学放射線療法や、手術不能な患者さんに対する定位放射線治療も行っています。それぞれ適応となる疾患や病期などがございますので、詳細は各担当医にお問い合わせください。
がんと診断された患者さんは、多くの不安な事もあるかと思います。そのような患者さんの不安を軽減するべく、当院では医師だけでなくがん看護専門看護師やがん化学療法認定看護師、がん薬物療法専門薬剤師と密に連携し、チーム医療として患者さんを全人的にサポートできる体制を構築しています。がん治療に関してご不安な点などございましたら、いつでもご相談いただければと思います。
がん薬物療法は保険適応であっても高額な薬剤もあります。当院では患者さんの経済面の不安に対する懸念を軽減すべく、各種社会資源の利用案内も行っております。ご相談したい内容がございましたら、各担当医にご相談のうえ、医療相談部など専門部署での相談も可能ですので、お気軽にお問い合わせいただければと思います。
呼吸器インターベンション・気管支鏡診断
獨協医科大学呼吸器内視鏡センターの一員として、気管支鏡診断および治療、局所麻酔下胸腔鏡を行っています。肺病変については確定診断を行うとともに、超音波気管支鏡を使用した正確な病期診断を行うようにしています。
硬性鏡を用いる高難易度な処置も、十分な経験を有した専門医が麻酔科等と協力しながら治療を行っています。
高度気道狭窄については、人工肺(ECMO)を使用した処置にも対応しています。
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気道の疾患
気道狭窄、気道内腫瘍、喀血、気道内異物、難治性瘻孔、など
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胸膜の疾患
悪性胸膜中皮腫、難治性胸水、など